闇へいざなえ

Story
「………それでだ、昔あの家に住んでいた君に、案内を頼みたいんだ。嫌なら、家の中には入らなくて良い」
「はぁ…」
僕は、高野仁(たかのまさし)。
今、某雑誌の編集部の人に、来月号のネタの取材につき合うように頼まれている。
昔、僕の暮らしていた家…。父さんや母さんが生きていた頃の僕の家。けど、あの事件をきっかけにその暮らしは幕を閉じた。
「一緒に来てくれるね?」
そして、この人は確か松浦賢治(まつうらけんじ)と名乗っていた。学校の門の前で待っていて、そして今は学校からすぐの所にある喫茶店にいる。
「…分かりました」
「本当かい?いやぁ、助かるよ。それじゃあ、来週の日曜日、君の家へ迎えに行くよ。じゃあ、またね仁君」
そう言うと、松浦さんは会計を済ませて店を出た。
…本当はあまり行きたくない。だって、父さんと母さんはあの家に殺されたんだ。
「でもなぁ…。じいちゃん達の承諾を取ってたらなぁ…」
断れるワケない。
小学5年の時、両親が死んでからずっと面倒を見てくれたのは、じいちゃんとばあちゃんだった。
あれからもう3年も経った。2人には感謝している。だから、じいちゃん達が行けと言うなら何処だって行ってやる。
 
そして僕は、店を出て家路についた。



「ただいまー」
「おかえりなさい、仁」
ガラガラっと扉を開いて家の中へ入った僕を、ばあちゃんが優しい笑顔で迎えた。
「今日ね、仁にお客さんが来たのよ」
「知ってる。松浦さんでしょ?今日、帰りに会ったよ」
会った…というより…。僕にとっては連れて行かれたって感じだ。
「良い機会じゃない?あの家にはまだ、忘れ物がたくさんあるんでしょう?お父さん達の形見とか…」
…じいちゃんもばあちゃんも知らない、あの家の恐ろしさを。
2人は今まで、僕が忙しくてあの家に行かなかったんだと思ってる。けど、それは違う。
僕は、怖くて行けなかったんだ。あんな所、1人で行くなんてゴメンだ。いや、誰かと一緒でも…。
あの家は、山の中にある。と言っても、道路もちゃんと整備されている。しかし、本当に何処を見渡しても木ばっかりで、あの家以外民家は見あたらない。何せ、あの頃学校に行くのに車で1時間以上もかかったくらいだ。
「…うん、そうだね。色々と取ってくるよ。…ほとんど置いてきちゃったから…」
逃げてきた。何もかもを捨てて。
父さんと母さんが死んだとき、あの家に何かが居たような気がした。だから逃げてきた。
…けどじいちゃんとばあちゃんには言えない。言ったってきっと信じてくれない。あの家が呪われてるなんて…。

そして、とうとう日曜日がやってきた。
「それじゃあ仁君、行こうか」
今日は、この前の松浦さんと、そして与野早智子(よのさちこ)という女性も一緒だ。
カメラやらなにやら色々と積み込んだ車で、あの山へ向かう。
……嫌な予感がする。行きたくない…。
「どうしたの?仁君。顔色が優れないんだけど…」
「え?あ…いえ、何でもありません…」
「与野、この子はまだ14だ。幽霊が住み着いているなんて噂されているところ、怖いに決まってるじゃないか」
この2人は、その"幽霊"が目的らしい。まぁ、顔色が悪いっていうのは多分、松浦さんの言ったとおりだ。
ただ、一つだけ違う。僕が怖いのは"幽霊の噂"ではなく、何者か分からない存在だ。
父さんと母さんを殺した、見えない恐怖…。
「大丈夫よ、仁君。あんなの、ただの噂に決まってるわ」
「はぁ…」
じゃあ、何のために行くんだよ。現場を見てきて、作り話を並べて出版ってか?
「…あ、仁君、あれだよね?」
突然、松浦さんがそう言った。
ドクン
鼓動が波打つのが分かった。
今までずっと俯いたままだったから、全く気づかなかった。
見覚えのある道。そして、右手の方にあの家が不気味に建っている。結構広い道なのに、誰1人として通らない。何処を見渡しても木ばかりで、何も変わっちゃぁいない。
「……はい、そうです」
ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン ドクン…
ガチャッ
「ッ!!仁君!!」
何故かは分からない。僕は、まだ止まっていない車から飛び降りて、不気味な建物の中へと入って行った。まるで、吸い込まれるかのように。
「…?仁君、どうしたのかしら…」
「うーん、とりあえず、そこの車庫に車を止めようか」